あの春、君と出逢ったこと
『……どうした?』
呆然としていた私を不思議に思ったのか、先に教室に来ていた煌君が、座りながら私に話しかけてくる。
『教科書持ってないって忘れちゃってて。
皆普通に接してくれるから、今日転校してきたなんて忘れてたよ』
頭の後ろを掻きながら苦笑いを浮かべて煌君を見る。
そんな私に、煌君は呆れたように笑って、離れていた机をまたくっつけてくる。
『……また見せてくれるの?』
『俺以外、誰がいるんだよ』
私の言葉にため息をつきながらそう言う煌君に、思わず笑ってしまう。
煌君なりの優しさって事だよね、これは。
『……何笑ってるの』
『何でもないよ』
眉間に皺を寄せて私を見る煌君から、顔をそらして笑いをこらえる。
多分、肩が震えてるからばれたんだと思う。
煌君が、私の肩を掴んでグルッと向きを変えて、私の目線までしゃがみこむ。
なんなのか分からず、私が煌君を見て首を傾げた瞬間、煌君の右手が伸びてくる。
ピシッ
そしてそのまま額まで伸びてきた右手で、盛大な音を鳴らしデコピンされ、慌てて煌君から距離をとり、額を抑えてうずくまる。
『〜〜っ……‼︎ 何するの!』
私の渾身の睨みは、やっぱり煌君にも効かないらしく、澄ました顔で笑みを浮かべながら私を見下ろす煌君に、額を抑えたまま叫ぶ。
『何って、デコピン?』
そんな私を面白そうに見下ろして、右手でデコピンをする真似をしながら笑う煌君。
……ムカつく!
さっき煌君は優しいって思った私の好意を返してよ!
やっぱり煌君はただの意地悪野郎だ。