あの春、君と出逢ったこと
『緑……』
『何?』
お昼を知らせる鐘が鳴っているのに気付かず、窓の外を眺めながらそう言った私に、煌君の席を占領したのか、なぜか隣に座っている翠が反応する。
私が言ったのは、翠じゃ無いんだけどね。
『違う違う。
ほら、外……』
そう言いながら、外にある桜の木を指すと、翠は、私が指した方向を見て、納得したように頷いた。
『桜の話ね。
葉桜も、なかなか良いわよ?』
私に向かってそう言いながら笑う翠に、何と無くぎこちない笑みを返す。
桜が散るのは、本当に一瞬。
花が開くのは待ち遠しいのに、散るのはものすごく早い。
夏には緑の葉を茂らし。
秋には落ち葉をヒラヒラと落とし。
冬になれば、次咲くために、蕾をつける。
もちろん、春になれば花開くのだけれど。
『私ねー、桜好きなの!
翠は好き?』
『ええ、好きよ』
私の問いに答えた翠に、笑顔を返して翠の両手をとり、そのまま、嫌がる翠を無視して上下に思いっきり振る。
『楽しそうなことしてるなー?』
そんな私達に向かって少し高めの声が聞こえ、翠とともに振り返る。
そこには、いつも通り一緒にいる煌君と快斗君が居て。
やっぱりいつも通り、無表情の煌君と笑顔を浮かべている快斗君。
『何の話してたんだ?』
顔を輝かせながら、興味津々に聞いてくる快斗君を翠がいつも通り冷たくはねのける。
『酷いなー翠チャン』
まぁ、例によって、快斗君には効いてないっていうか……気づいていないというか。
ポジティブ思考の快斗君は、翠にとってなかなかの天敵なんだと思う。
……お似合いだとも思うけどね?