あの春、君と出逢ったこと



『……ん?』



『だから、半分』



首を傾げた私に呆れたような顔をした煌君は、そう言いながら私の両手を掴みドーナツを握らせる。



半分って、その半分!?




頭の中でパニックを起こしている私なんてつゆ知らず、煌君は澄ました顔で半分になったドーナツを頬張る。



……何で?



煌君って、こんなことするなんて思わなかったから、意外すぎて手が口の下に動いていかない。




『食わないなら、俺が食うけど⁇』



ドーナツを見たまま固まっている私にそう言った煌君は、意地悪な笑みを浮かべてこっちを見ていた。



そんな煌君に、口を尖らせる。



『食べるからいい!』




そう叫んで顔をそらした私の行動に、ガキかと笑う煌君に蹴りを入れる。



私、ガキじゃないし、驚いてただけだし!




『早く食え』



自分を睨みつけている私に気づいた煌君が、呆れたような笑みを浮かべながら急かすようにそう言う。



『はいはーい』




そんな煌君に軽く返してドーナツを口に入れる。


……やっぱり美味しい。



煌君に取られなくてよかったや。



すでに食べ終わったらしい煌君に見られながら、急いでドーナツを完食する。



もう少しだけで良いから味わいたかった……。




そんな後悔をしながらも、勢いよく水を口に流し込んで両手を前で合わせる。




『ご馳走様でした!』




『ご馳走させられました』




私の言葉に、ほおづきながら笑った煌君がそう返す。



『払うって言ったのに……』


口を尖らせながら言った私を見て、煌君がフッと笑みを浮かべる。



『冗談』





軽くそう言いながら私の頭の上に腕を乗せた煌君に、ワザとらしく溜息をついて見せ、頭の上に乗った煌君の腕を払い落とす。




払い落としたのはいいけど、奢ってもらったのは事実だし……。



お礼くらいは言っておこうかな。



そう思い、煌君を見て笑みを浮かべながら口を開く。




『……ありがとう』










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