あの春、君と出逢ったこと
そんな私の言葉に首を傾げた煌君は、本当に訳の分からないといった表情を浮かべる。
……分かんない?
逆に、ドーナツ以外に何を感謝するのさ。
いつも意地悪だし。
たま〜に優しいけど、それは偶にであって!
決して毎日って訳ではない。
『ドーナツ、奢ってくれてありがとう』
心の中では毒づきながらも、未だ気づきそうにない煌君に向かって、分かりやすくそう伝える。
……これで分からなかったら、煌君の理解能力が低いか、私の語彙力がないかのどっちかって事だよね?
語彙力……は、あると思う。
多分。
『……別に』
1人悶々と考えていた私なんて知らず、煌君がさっきの言葉にそう返してくる。
別にって、本当煌君らしい返し方。
冷たいように聞こえて、実は照れてるだけ。
前、快斗君が、翠はツンデレだなんて言ってたけど。
私からしてみれば、煌君も中々ツンデレに入ると思う。
絶対、ツンデレだと思う。
デレはあまり出ないけど。
ツンツンツンツンツンデレ位の割合でツンが多いけど!
『ない頭で考えるな』
唸りながら考えていた私を不思議に思ったのか、頭上からそう言ってくる煌君の言葉に、イライラメーターが上がっていく。
……煌君って、私を怒らせる天才なんだと思う。
それぐらいわざとのように、ピンポイントで私のイラつきのツボを押してくるし。
その事もムカつく原因なんだけど。
『……出るぞ』
ガタッと席を立ち上がりながらそう私に声をかけてきた煌君に適当に返事を返し、静かに私も席を立つ。