あの春、君と出逢ったこと




マニュアル通りの定員の言葉を聞きながら、お店の外に出る。



『……もう暗いね』




まだ5月だからなのか、まだ五時半なのに暗くなっているのを見て、薄暗くなるのが早いと実感する。



……夜は好きなんだけど、出そうじゃない?


アレが。



私的には、鬼、悪魔、大魔王様並に怖いから、夜は短くていいと思うんだよね。




日が落ちるの早いの反対。

絶対夜は短い方が楽しい。


……それは置いといて!
早く帰らないと本当に暗くなるよ。



『じゃ、明日ね煌君。

今日はありがと!』



そう思った私は、急いで煌君にそう言って、家のある方向に向かって走る。




……走ろうとした、かな?



そんな私の手を、後ろから煌君が強く引っ張って私を引き止める。



『ん?』



煌君の方を向いて首を傾げると、言いにくそうに目線をそらした煌君は、何かを小さく呟く。


小さく呟くだけだった煌君の言葉が聞こえず、暗くなる空に、慌てて煌君に聞き返す。




『……家どこ』




今度は私にも聞こえる声で、はっきりと言った煌君を思わず目を見開いてみてしまう。



……だって、今、家どこ? って……。



それって、送ってくれるってこと?
それは自惚れ過ぎかな?



『だから、家どこ?

送る』



未だ呆然と固まる私に、イラつきを含めた声色でそう言ってきた煌君に、慌てて我に帰る。



『……煌君、送ってくれるの?』



私の言葉に頷いた煌君が、フッと、綺麗な笑みを浮かべる。



最近、よく煌君の笑みを見る気がする。
でも、綺麗だから。何か心臓に悪いんだよね。



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