あの春、君と出逢ったこと



『黙って送られてろ。

どうせ暗闇怖いんだろ?
ガキだしな、お前』




『ガキって私⁉︎

私のどこがガキなのか、3文字以内で説明してみてよ』




勝った。とばかりにドヤ顔を浮かべた私を見て、少し考えた素振りを見せた煌君が、口角を上げたのを見て、ウッと詰まる。







『全部』



口を開いた煌君から出た言葉に、思わず拍手を送りたくなる。


だって、本当に3文字いないで説明した人初めてなんだもん。





……ん?



違うよね?
ガキとか拍手とか、そういう問題じゃなくて。



『煌君、家どこなの?』




これが、1番の問題だと思う。
私と反対方向なら、絶対遠くなるってことだし。



『俺は、右』



そう言って、右方向を指す煌君に、苦笑いを浮かべる。






『……何?』



そんな私の表情を不思議に思ったのか、顔を覗き込みながら首をかしげる煌君と目があい、慌てて距離をとる。




『私、左だから。

送らなくてもいーよ!
て事だから、また明日ね!』



……初めて、少しだけ暗くてよかったって思ったよ。

いま、絶対顔赤い自信があるし。



早口でそう言って立ち去ろうとする私の腕に、話さないように力を込める煌君。



『送る』



『いや、だから大丈夫だよ?』



『俺が送りたいだけ』



頑なに断る私に眉間にしわを寄せた煌君が短くそう言う。



……俺が送りたいだけ?


それ、どういう意味ですか? 煌さん。


頭の中でこう君の言葉が回って、意味もなくその場に立ち尽くしながら煌君をみる。




『お前を1人で帰らせたら、知らないおっさんについて行きそうだしな』



そんな私に気づかず、鼻で笑うような笑みとともにそう言った煌君に、一瞬だけトキメイてしまった私を呪う。


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