あの春、君と出逢ったこと





『朝倉煌……。


朝倉……おい、朝倉⁇』




名簿にチェックをつけながら何度も煌君の名前を呼ぶ担任に、思わず溜息が出る。



『先生、今日、煌君休んでます』




私の呆れたような声色に気づかず、私にお礼を言って名簿に記入する担任から、窓の外に視線を移す。




外では、止む事を知らないかのように雨が地面を叩きつけている。




6月……。


梅雨。




季節の変わり目であるこの月には、体調を崩す人が続出するらしい。



現に、そのうちの1人。

隣である煌君の席に視線を移すも、その席は空席で、いない事を物語っている。



お陰で、朝気持ち良く登校できた。なんて、翠は言っていた。




『夏川……夏川!』



『は、はいっ』




返事を返さなかった私に担任が叫び呼んだ声を聞いて、肩が上に上がり、声が上ずる。



今、出席確認中だって事忘れてたよ……。




『……起立…礼』




委員長の言葉で立ち上がり、一礼した瞬間、周りの人達が一斉に動き始める。



友達のところに話に行ったり、次の授業の準備をしたり……。




まぁ、私は翠のところに行くんだけどね。





『栞莉、寂しい⁇』




いつも通り、自分の元に来た私を見て翠がそう言う。



……寂しい⁇ 私が⁉︎


『何でそうなるの⁉︎』



『煌が居ないからよ』




驚いて聞き返した私に一瞬引きながらも、口元に緩い弧を描いた翠が、からかいを含めた声色でそう言う。



煌君が居ないと、私が寂しいと思う考えが、イマイチわかんないんだけど……。





『なになに? 栞莉チャンは煌が居ないから寂しいのか?』




私達の元に来た快斗君は、さっきまでの会話を聞いていたようで、ニヤニヤしながら私にそう聞いてくる。



『だから、何で私が……』



快斗君にそう反論した私を見て、翠と快斗君が顔を見合わせて溜息をつく。




『ここまで鈍感だと、むしろ清々しいわね』



『あの煌でさえ、気づいたって言うのにな……』




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