あの春、君と出逢ったこと



『そう言うわけだから。

放課後、一緒に行くわよ』



念を押す様にそう言った翠に頷く。



『俺も行く!』


『どうぞご勝手に』



話にいきなり入ってきた快斗君の言葉に軽く返した翠を見て、快斗君がガッツポーズをする。



ガッツポーズって……どんだけ嬉しかったんだろう?




『煌のやつ、毎回この時期は風邪ひくからな〜。
俺が看病してやらないとな!』




『そうね。どうせ来年もなんだから。
栞莉、その時もよろしくね?』



快斗君の言葉に同意した翠の言った言葉に、思わず固まってしまう。



『栞莉⁇』



そんな私を不思議に思ったのか、顔を覗き込んできた翠に慌てて笑みを取り繕う。



『来年は風邪引かないかもよ⁇』



『去年もそう思ったんだけど。
今の所、毎年風邪ひいてるわよ。あの馬鹿』



私の言葉に眉間にしわを寄せながら返した翠を見て、内心安堵してバレないように息をはく。


来年の約束、か。



ボーッと、翠と快斗君が言い争っているのを聞き流しながら窓の外を眺める。



桜は相変わらずの緑で、雨に打たれて葉が揺れている。



『……ッ、ゴホッ』


一瞬、寒気が遅い鳥肌が立ったかと思った瞬間、喉から咳がこみ上げてくる。


……ここ1ヶ月は順調だったのに。




『あら、まさか栞莉も風邪?』


『栞莉チャン、無理はダメだぜ?』



いきなり咳き込んだ私に心配の声をかけてきた翠と快斗君に、笑って頷いてみせる。



『大丈夫大丈夫。咳き込んだだけだから』



『なら良いけど……』



私の言葉にシブシブ納得した翠がそう言ったと同時に、教室に眼鏡の女の先生が入ってくる。



『私、席戻るね?』



それを見て慌てて翠の近くの席から立ち上がり、自分の席に戻る。




あの先生、生徒指導の先生だから、目つけられるとちょっと面倒なんだよね。




自分の席に着き隣に視線を移すも、いるはずもなく。



溜息と共に深く椅子に腰を下ろす。







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