あの春、君と出逢ったこと
『黙れ』
そんな快斗の足を引っ掛け、止まった快斗の肩を掴み、そう言ってやる。
『分かったから怒るなって!』
俺が怒っているのに気づいてもなお、ニヤニヤと笑うのをやめない快斗に、溜息をつく。
『こ、煌君が薬飲まないから、私が翠に怒られたんだけどッ!』
そんな俺に、やっと翠から逃れられたのか、文句を言いながら栞莉が近づいてくる。
……また煩いのが来た。
『……快斗かよ、お前』
快斗と栞莉を見比べながらそう言った俺に、栞莉が意味がわからないという様に首を傾げる。
『止めなさいよ、煌。
栞莉と快斗が同じだなんて、栞莉が可哀想だわ』
『ちょ、翠チャン、それどういう意味⁉︎』
俺の言葉にそう言って訂正した翠に、快斗が思いっきり突っ込む。
そんな快斗に耳元で叫ばれたからか、明らかに不機嫌になった翠が、快斗を無言で睨みつける。
『み、翠さん?
何で怒っていらっしゃるんでしょうか⁉︎』
翠の視線に気づいた快斗が、珍しく敬語を使いながら苦笑いをし、廊下の方に向かって後ずさっていく。
『……翠、怒ってるの?』
そんな2人を見て、快斗と同じ様に苦笑いを浮かべた栞莉が、俺にそう話しかける。
……怒ってると言われれば、怒ってるだろ。
原因は100%快斗が煩いからなんだろうけどな。
『快斗君の気持ち、痛いほど分かるから、見てるこっちも怖くなってくる……‼︎』
俺の隣から後ろに移動した栞莉が、俺を盾にしながら2人の様子を伺う。
まぁ、さっきまで怒られてたのは栞莉だしな。
そう考えれば、快斗と栞莉は本当に似ている気がする。
『栞莉。用意したドーナツ、食べないなら片付けるわよ?』