あの春、君と出逢ったこと
『桐山先生。
夏川、教科書持っていないので、机、寄せでいいですか?』
私を指し、教科書を片手でヒラヒラと動かしながら朝倉君がそう言う。
『おー、そうだな。
夏川、朝倉に見せてもらえ』
朝倉君の言葉に頷いた先生が、驚いて固まる私にそう言ってのける。
机って、そのために……⁇
戸惑う私をよそに、ガタガタと音を立てながら、私の机と自分の机を並べる朝倉君を見る。
『……何か、ついてるか?』
そんな私の視線を不思議に思ったのか、朝倉君が顔を上げて首を傾げる。
『違くて……。
ありがとう、朝倉君』
案外、朝倉君は優しい人なのかもしれない。
そう思い、朝倉君を見ながらお礼を口にする。
『別に、いいよ。
これくらい常識だろ』
席について教科書を私と自分の机の真ん中に置く朝倉君。
『……後、煌でいいから』
『……え?』
『名前。朝倉君なんて、長いだろ⁇』
不敵な笑みを浮かべながら、私にそう言う朝倉君を見て、慌てて目を逸らす。
あんなの、反則だと思う。
そこら辺にいるわけじゃない、中性的な顔立ちでいわゆるイケメンの部類に入る朝倉君。
そんな朝倉君にそう言われたら、誰でも見惚れると思う。
……私も、例外ではなく。
『……駄目か?』
何時までも返事を返さない私を不思議に思ったのか、朝倉君が首をかしげながらそう言う。
……逆に、名前で呼んでも、いいのかな?
そう思いながら朝倉君を見ると、期待するような表情を見せる朝倉君。