あの春、君と出逢ったこと
『あら、煌。
今回も私の勝ちね??』
不機嫌な煌君をからかうように、口角をニヤリと上げながら挑発的な声色でそう言った翠。
そんな翠を見て、煌君の眉間に寄ったシワが深くなるっていく。
そんな2人を見て、なぜか私が2人の間でアタフタと焦ってしまった。
『……あ?』
『何か? 私は、本当の事を言ったまでよ』
威嚇するかのように、いつもより低い声を発した煌君に怯まず、涼しい顔で翠がそう言ってのける。
『……お前、誰に似たんだよ』
『少なくとも、煌とは似たくないわね』
ああ言えばこう言う。
最近では少しお馴染みになってしまった朝倉双子の口喧嘩も、今回は少し口が強いらしい。
言い合っている様子も、いつもより少しだけ激しい気がする。
『か、快斗君……』
私の助けを求めるために向けた快斗君への視線は、なにも映さず、人だかりを捉えるだけで。
……え?
快斗君、どっか行っちゃったの⁉︎
未だに口喧嘩を止める様子のない2人を無視し、いつの間にか消えていた快斗君を探すため、あたりを見渡す。
しばらく探しても見つからず、2人から離れて人だかりをかけ分けながら快斗君を探す。
人だかりを抜けると、1人で順位表の1番後ろにある紙を見ている快斗君を見つけた。
……そう言えば、補習組の紙も貼り出されてるんだよね?
真剣に紙を見つめている快斗君に、声をかけるのを一瞬戸惑って、その場に立ち尽くす。
だって、何気にね?
快斗君と2人になるの初めてだから。
いつもは、煌君とか翠とかが居たからいいんだけど、今回はとっても稀な時間だよね?