あの春、君と出逢ったこと
『……お前、平均じゃなかったのか?』
心なしか、そう言った煌君が、いつもの無表情よりも柔らかい表情を浮かべているような気がして、思わず固まる。
『……栞莉⁇』
そんな私のことなど知らず、目の前で手を振ってきた煌君を見て、顔に熱が集まるのを感じ、慌てて顔をそらす。
……何!?
何かが、いつもの煌君と違う!
さっきまで、翠と喧嘩してたまでは同じだったはずなのに……。
『おい。栞莉⁇』
再度私に声を変えてきた煌君に、やっと我に返って慌てて笑みを取り繕う。
『自分でも驚いちゃって』
『……だろうな。
快斗が、パニクってどっかに消えたって聞いた時に、大方そうだろうなと思った』
馬鹿にするような声色でそう言った煌君を、顔の熱だと忘れて睨みつける。
『なっ……‼︎
確かに、驚いたけど!
煌君に言われると、何となくムカつく‼︎』
『……お前が俺よりも下だからだろ』
私が睨んでも少しも反応せずに鼻で笑った煌君をみて、眉間にシワが寄るのを感じる。
……やっぱ、さっきの気のせい‼︎
いつもと違う表情を見て、ちょっと焦っただけ!
こんな奴で赤くなるなんて、絶対にありえないよね⁇
焦った自分がおかしくなり、自然と頬が緩む。
『いきなり笑うな。気持ち悪い』
『煌君、最近私に酷いよね?』
『……気のせい』
翠と快斗君が居るのを忘れて、煌君に突っかかった私を、華麗にかわしていく煌君に、イライラが募っていく。
『……負かしてやる』
『一生かかっても無理』
やっぱり、聞こえないくらい小さい声で呟いた言葉を拾った煌君に、可笑しくなって、自然と笑みが零れる。
『……むかつく奴』
そう言いながらも、口角が上がっている煌君を見て、また熱が集まるのを感じる。
『俺、夏休み確保‼︎』
『はいはい、おめでとう』