妻に、母に、そして家族になる
「お家に帰りたくないの?」

と言うと、小さく頷く。

「帰っても、一人だから……」

「そっか……」

もしかしたらこの子の両親は仕事が忙しくて帰りが遅いのかもしれない。

誰もいない静かな家で一人で留守番するのが寂しいのだろう。

だから公園で寂しさを紛らわせているのかもしれない。

「でも、暗くなったらこわーい人が来ちゃうかもよ。危ないから早く帰りなさい」

汗で額に張り付いた髪の毛を払うように撫でると、男の子はブランコから降りた。

帰るのかなと思っていたら、男の子はじっと私の顔を見て言った。

「お姉ちゃん、お名前は?」

「私は文香だよ。橘文香」

「ボクは信濃春樹(シナノハルキ)。ハルって呼んで」

「ハルくんね。わかった」

「うん。フミちゃん、また会える?」
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