妻に、母に、そして家族になる
でもあの時は恐怖を感じなかった。

それよりも助けないと、という気持ちの方が遥かに大きかった。

ハルくんと出会ってから、少しだけ心が強くなれたのかもしれない。

まだ仲良くなって数日だけど、こんなにも掛け替えのない存在となっている。

ハルくんと会えてよかった。

涙はハンカチで拭うとすぐに止まってくれる。

すると私が泣き止むのを待っていたらしい彼が口を開いた。

「あの、お名前を伺ってもよろしいですか」

「あ、はい。私、橘文香です」

「私は信濃弥(シナノワタル)と言います。それで、あの、家はどこですか?外に車があるので、よろしければ送ります」

「お気遣いなく。ここからすぐですから。ハルくんを早く休ませてあげてください」

「わかりました。今日は本当にありがとうございました」

「あ、最後に」

立ち去ろうとする二人を引き止め、ハルくんと同じ目線になるように屈んだ。
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