初恋
第十一話 お説教
「う~ん、どうするべきか」
携帯電話を握ったまま修吾は悩む。
(昨日の今日で電話するなんて急いてるって思われないだろうか……)
深雪から教えてもらった番号を眺めたまま、かれこれ三十分ほど経過していた。
(直美が昨日転入してきたこととか話題が全くないわけじゃないし話に困ることはないと思う)
悩んだあげく思い切って通話ボタンを押すが、否が応にも心拍数は上がり緊張感を生む。しかし、しばらくコールするが全く出る気配はない。
「まだ夜の九時だし、寝てるなんてことはないと思うけど」
一度電源を押して待機していると、すぐに着信音が流れる。ディスプレイには深雪の名前が表示されていた。
「もしもし」
「もしもし、こんばんは、しゅう君」
「こ、こんばんは」
昨日面と向かって話したにも関わらず声を聞いた瞬間緊張しどもってしまう。
「あっ、ごめんなさい。しゅう君って呼んじゃった」
「いえ、全然大丈夫です」
「すぐに電話取れなくてごめんね」
「いえ」
「今日の電話は何か大事なお話かしら?」
「いえ、特に大事な話しというか……」
(さっきから俺って「いえ」しか言ってねぇ……)
「あっ、そうだ! 直美だ。直美が昨日うちのクラスに転入してきたんですよ」
「そうみたいね。なおちゃん本人から電話あったから」
(そうだった。深雪さんと直美ってずっと交流あったんだよな。知ってて当然か)
用意していた話題が初っ端からくじかれ修吾は少し焦る。
「八年ぶりのなおちゃんを見た感想はどうだった?」
「えっ? え~っと、別人でした。当たり前ですけど」
「アハハッ、そうよね。小学生から中学生ですもんね。でも、凄く綺麗になってたでしょ?」
「そうですね。既にクラスでマドンナ的位置付けですから、人気ありますよ」
「う~ん」
深雪は唸ってから少し黙ってしまう。
(あれ? 俺、変なこと言ったか?)
「ねぇ、修吾君」
「はい」
「彼女出来たことないでしょ?」
「は、はい」
「うん、一つアドバイスしてあげる。女の子の微妙な変化には気付いてあげなきゃダメよ。髪型を変えたとか、目線がよく合うとか、小物が変わったとか」
「はい」
「なおちゃんの場合、ちょっとどころじゃなくもの凄く変わってたわけだから、ちゃんと気付いてあげなきゃダメ」
「はい」
「手紙の返事もちゃんと返さなきゃダメ」
「はい、って、アレ? 手紙?」
「さっきなおちゃんから電話あったわよ。修吾、私のこと忘れてたって。もの凄く文句言ってたわ」
(マジかアイツ、学校での悪戯を親に密告された気分だ……)
「いや、それはその、理由がありまして」
「どんな理由?」
(ちょっと面倒臭かったから、なんて言ったら激怒されそうだな。つーか、深雪さん意外の女性に興味がない。他の女性に見向きすることすら、俺にとっては有り得ない行為だし)
黙り込む修吾を深雪も黙って待つ。
(変に嘘をつくのも嫌だし、俺自体嘘をつけない性格だ。もうこうなったら)
「正直に言います」
「うん」
「深雪さん以外の女性を異性として見ないようにしてます」
「えっ?」
「他の女性と付き合うとか興味を持つとか、ずっと待っててくれると言った深雪さんに対して失礼だと思ってます。だから俺は深雪さん以外の女性を、異性として見ないようにしてるんです。それに深雪さん以外の人を、好きになれるとも思えないし」
修吾の驚きの告白に深雪は少し黙り込んでしまう。
「そ、そう……」
「迷惑、ですか?」
戸惑う深雪の反応に修吾も不安になる。
「ううん、嬉しいわよ。昨日も言ったけど……、あっ、昨日はどこかのお姉さんの話しか。うん、私も修吾君のこと好きだから正直嬉しい。ありがとう」
思いがけず深雪から好きと言われ、修吾も嬉しくなる。
(好きって言われた。これってやっぱり両想いだよな? 確かめたい!)
「あの、深雪さん……」
「なに?」
「えっと、あっ! 今度デートしませんか?」
(会って直接確かめたい。直接言いたいし言われたい!)
「いいよ。じゃあ今度の日曜日、昨日会った大宮駅待ち合わせでいい?」
(うわ! あっさりOKしてくれた)
「もちろん、日曜日全然大丈夫です! 熱があっても這ってでも大宮駅に行きます!」
「熱があったらダメよ。修吾君の身体が心配でデートどころじゃなくなるし」
「は、はい……」
(やっぱり深雪さん優しいな)
「修吾君には私の方からいろいろ話したいことがあるけど、電話じゃ時間的に無理あるし、今度会ったときゆっくり話しましょう」
「分かりました」
「でも、今日一つだけ言わせて」
「えっ? はい」
(な、なんだろう……)
「私のことをいつも一番に考えて想ってくれるのは嬉しいし間違っていないわ。でも、だからと言って他の女性を蔑ろにしていいということにはならないの。まして、なおちゃんは幼なじみで八年も手紙のことを気にかけるくらい、修吾君のことを大事に考えてくれている。異性とか同性とか関係なく、一人の人間として敬いちゃんと向き合うことは大事よ」
思いもよらない深雪からのお説教に修吾は萎縮する。
「私の言っている意味、修吾君なら分かってくれるわよね?」
「も、もちろんです!」
「うん、宜しい。じゃあ今日はもうおしまい。また日曜日にね。一応前日には連絡入れるから、待ち合わせ時間はそのときに。じゃあ、おやすみなさい、修吾君」
「お、おやすみなさい、深雪さん」
一方的に畳み掛けられ、修吾はそのまま電源を切る。振り返って考えてみても常に会話の主導権は深雪にあり、直美との件でお説教も上乗せ。
「俺、全然ダメじゃん……」
携帯電話を握ったまま、修吾は自己嫌悪の真っ只中にいた。
携帯電話を握ったまま修吾は悩む。
(昨日の今日で電話するなんて急いてるって思われないだろうか……)
深雪から教えてもらった番号を眺めたまま、かれこれ三十分ほど経過していた。
(直美が昨日転入してきたこととか話題が全くないわけじゃないし話に困ることはないと思う)
悩んだあげく思い切って通話ボタンを押すが、否が応にも心拍数は上がり緊張感を生む。しかし、しばらくコールするが全く出る気配はない。
「まだ夜の九時だし、寝てるなんてことはないと思うけど」
一度電源を押して待機していると、すぐに着信音が流れる。ディスプレイには深雪の名前が表示されていた。
「もしもし」
「もしもし、こんばんは、しゅう君」
「こ、こんばんは」
昨日面と向かって話したにも関わらず声を聞いた瞬間緊張しどもってしまう。
「あっ、ごめんなさい。しゅう君って呼んじゃった」
「いえ、全然大丈夫です」
「すぐに電話取れなくてごめんね」
「いえ」
「今日の電話は何か大事なお話かしら?」
「いえ、特に大事な話しというか……」
(さっきから俺って「いえ」しか言ってねぇ……)
「あっ、そうだ! 直美だ。直美が昨日うちのクラスに転入してきたんですよ」
「そうみたいね。なおちゃん本人から電話あったから」
(そうだった。深雪さんと直美ってずっと交流あったんだよな。知ってて当然か)
用意していた話題が初っ端からくじかれ修吾は少し焦る。
「八年ぶりのなおちゃんを見た感想はどうだった?」
「えっ? え~っと、別人でした。当たり前ですけど」
「アハハッ、そうよね。小学生から中学生ですもんね。でも、凄く綺麗になってたでしょ?」
「そうですね。既にクラスでマドンナ的位置付けですから、人気ありますよ」
「う~ん」
深雪は唸ってから少し黙ってしまう。
(あれ? 俺、変なこと言ったか?)
「ねぇ、修吾君」
「はい」
「彼女出来たことないでしょ?」
「は、はい」
「うん、一つアドバイスしてあげる。女の子の微妙な変化には気付いてあげなきゃダメよ。髪型を変えたとか、目線がよく合うとか、小物が変わったとか」
「はい」
「なおちゃんの場合、ちょっとどころじゃなくもの凄く変わってたわけだから、ちゃんと気付いてあげなきゃダメ」
「はい」
「手紙の返事もちゃんと返さなきゃダメ」
「はい、って、アレ? 手紙?」
「さっきなおちゃんから電話あったわよ。修吾、私のこと忘れてたって。もの凄く文句言ってたわ」
(マジかアイツ、学校での悪戯を親に密告された気分だ……)
「いや、それはその、理由がありまして」
「どんな理由?」
(ちょっと面倒臭かったから、なんて言ったら激怒されそうだな。つーか、深雪さん意外の女性に興味がない。他の女性に見向きすることすら、俺にとっては有り得ない行為だし)
黙り込む修吾を深雪も黙って待つ。
(変に嘘をつくのも嫌だし、俺自体嘘をつけない性格だ。もうこうなったら)
「正直に言います」
「うん」
「深雪さん以外の女性を異性として見ないようにしてます」
「えっ?」
「他の女性と付き合うとか興味を持つとか、ずっと待っててくれると言った深雪さんに対して失礼だと思ってます。だから俺は深雪さん以外の女性を、異性として見ないようにしてるんです。それに深雪さん以外の人を、好きになれるとも思えないし」
修吾の驚きの告白に深雪は少し黙り込んでしまう。
「そ、そう……」
「迷惑、ですか?」
戸惑う深雪の反応に修吾も不安になる。
「ううん、嬉しいわよ。昨日も言ったけど……、あっ、昨日はどこかのお姉さんの話しか。うん、私も修吾君のこと好きだから正直嬉しい。ありがとう」
思いがけず深雪から好きと言われ、修吾も嬉しくなる。
(好きって言われた。これってやっぱり両想いだよな? 確かめたい!)
「あの、深雪さん……」
「なに?」
「えっと、あっ! 今度デートしませんか?」
(会って直接確かめたい。直接言いたいし言われたい!)
「いいよ。じゃあ今度の日曜日、昨日会った大宮駅待ち合わせでいい?」
(うわ! あっさりOKしてくれた)
「もちろん、日曜日全然大丈夫です! 熱があっても這ってでも大宮駅に行きます!」
「熱があったらダメよ。修吾君の身体が心配でデートどころじゃなくなるし」
「は、はい……」
(やっぱり深雪さん優しいな)
「修吾君には私の方からいろいろ話したいことがあるけど、電話じゃ時間的に無理あるし、今度会ったときゆっくり話しましょう」
「分かりました」
「でも、今日一つだけ言わせて」
「えっ? はい」
(な、なんだろう……)
「私のことをいつも一番に考えて想ってくれるのは嬉しいし間違っていないわ。でも、だからと言って他の女性を蔑ろにしていいということにはならないの。まして、なおちゃんは幼なじみで八年も手紙のことを気にかけるくらい、修吾君のことを大事に考えてくれている。異性とか同性とか関係なく、一人の人間として敬いちゃんと向き合うことは大事よ」
思いもよらない深雪からのお説教に修吾は萎縮する。
「私の言っている意味、修吾君なら分かってくれるわよね?」
「も、もちろんです!」
「うん、宜しい。じゃあ今日はもうおしまい。また日曜日にね。一応前日には連絡入れるから、待ち合わせ時間はそのときに。じゃあ、おやすみなさい、修吾君」
「お、おやすみなさい、深雪さん」
一方的に畳み掛けられ、修吾はそのまま電源を切る。振り返って考えてみても常に会話の主導権は深雪にあり、直美との件でお説教も上乗せ。
「俺、全然ダメじゃん……」
携帯電話を握ったまま、修吾は自己嫌悪の真っ只中にいた。