クールな御曹司と溺愛マリアージュ
昼ドラ的展開からのトラウマ
第三会議室の前に並べられた椅子に座っている私は、膝に乗せた手にじんわりと汗が滲む程の緊張感に包まれている。

大手家具メーカーに入社してもうすぐ六年目を迎える私、柚原恵梨(ゆずはらえり)二十七歳は今、人生の分岐点に立っていると言っても過言ではない。



都内に五階建ての自社ビルを構える国内三位の家具メーカー株式会社ワームは、六月から新たに店舗やオフィスなどの空間デザインを行う新会社ワーム・デザインを設立する運びとなった。

空間デザインとしての知名度を上げ、同時に我が社の商品の売り上げアップに繋げる事が目的らしく、将来的にはホテルなどの大規模施設のデザインを手掛ける事を見据えているらしい。



『既にワームデザインへ異動する社員は決まっているが、残り一名を事務員として総務部の女性社員の中から採用したいと申し入れがあり、急遽面接を行うことになった。現在の業務についてなどよく考えた上で、面接希望者は部長まで申し出るように』


先日ワームの佐伯(さえき)社長が突然そんな事を言い出すもんだから、女性社員の間では一時この話題で持ち切りだった。

けれど新会社に移ると若干今より収入が減ることに加え、将来どうなるのかもはっきり分からないからか、希望者はなかなか現れなかった。


当然私も散々悩んだ。今の仕事が嫌なわけじゃないけど、楽しいかと言われたら頷けない。

以前ほどストレスも溜まらないし毎日変わらない業務をこなすのにも慣れた。でもこのままでいいのかという気持ちも正直あった。


悩んだ末に面接を受けることにしたけれど、やっぱり止めておけばよかったのかもと少しだけ後悔が頭を過る。

今まさに面接の順番待ちで座っている華やかな女性社員を見渡すだけで、どんどんと自信が削がれていくのを感じているから。




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