クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「どういう理由でそれを選んだのか理解できない」

ゆっくり顔を上げると、最初から少しも表情を変えないで私を見ている佐伯社長。その隣にいる伊勢谷さんは、少しだけ笑っているように見えた。


私、馬鹿にされてるんだ。


変わらない毎日や今の自分を少しでも変えたくて臨んだ面接だったのに、結局自分のコンプレックスを散々罵られただけだった。


「私は……私は本気でワームデザインに入りたいと思っていました。自分を変える為に、会社の為に、一生懸命働きたいと思って……」


悔しいから絶対に涙は流さない。その代わりに、私は勢いよくその場に立ち上がった。


「ずっと悩んできたけど、自分にどんな服が似合うのか自分では分かりません。この服を選んだ理由は、着心地がいいのと安い割に生地がしっかりしてるからです!
ダサいって言いたいなら言って下さって結構です!」


佐伯社長は変わらず無表情のままだけど、伊勢谷さんは目を丸くして私を見ている。


「でも……お洒落ってなんですか?流行りって、誰が決めるんですか?
私から言わせてもらえばテレビや雑誌なんかによくある、抜け感って?透け感って?〝感〟ってなんだよ!っていつも思ってます!
センスがなくたって、ダサくたって仕事は一生懸命やってきました!
過去に嫌がらせを受けて仕事を押し付けられてきたお陰で、自分の担当以外の仕事も沢山覚えました!それを生かせるのなら私は……」


本当はもっと言いたい事はあったけど、これ以上言葉にしたら泣いてしまいそうだったから、私は俯いたまま二人に向かって深く頭を下げた。


「今日は……ありがとうございました」

それだけ言い残し、二人の顔を見る事なくその場を後にした。


静まり返った部屋の中から伊勢谷さんの声が聞えた気がしたけれど、これ以上聞きたくないという思いでドアを閉めると、ずっと堪えていた涙が私の頬を伝う。



不思議なオーラを纏っていて、人を惹きつけるような強い意志を感じさせる佐伯社長。

この人の元で働けたら、何かが変わるかもしれない。そう思ったあの日の私の気持は、儚く砕け散った。

それと同時に過去の出来事が、再び私の脳裏を支配していた。
思い出したくもない、二年前の悪夢が……。






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