クールな御曹司と溺愛マリアージュ
涙からの優しさ
あのおかゆには魔法かなにかが入っていたのか、翌日にはすっかり熱は下がってくれた。
薄々気付いていたけれど、多分ああ見えて佐伯さんは心配性だ。
多少の喉の痛みは残っていたものの熱は無いと伝えたら、もう一日休んで体調を整えろと言われてしまった。
本当は一日でも早く仕事に出たかったけど、私以上に頑固な佐伯さんにはそれは通用しない。
結局出社したのは三日後。
あんなことがあったのだから少しは意識してもらえるのかと思いきや、そう簡単にいかないのがやっぱり佐伯さんだ。
これまでと全く変わらず冷たく冷静で淡々としていて、仕事に関してはとても厳しい佐伯さん。
そしてあの約束は未だ果たされないまま、三週間が過ぎた。
「今日は……っと」
十時を過ぎた頃、手帳を眺めながら珈琲を飲んでひと息ついている拓海さん。
「拓海さん、今日はどこか出掛けるんですか?」
「うん、今日はワームに行くんだ」
拓海さんは振り返ってそう言い、うしろにいる私にいつものスマイルをくれた。
「ワームに?」
私が首を傾げると、頭の上にポンと何かが乗せられ、驚いて手を伸ばす。
手にしたのは、何かのパンフレットのようだった。
私の頭の上にそれを乗せた張本人である佐伯さんが、拓海さんの隣に腰掛ける。
「柚原、資格の方はどうなった」
「家で色々調べてるんですけど、資格を取る為の勉強って今沢山出てるし、どれが一番いいのか全然分からなくて」
「そうだろうと思った。それ、俺のお薦めだ」
パンフレットのようなもの、よく見たらそこには〝カラーコーディネーター〟という文字が書かれていた。