クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「戻りました」
「お帰り恵梨ちゃん」
拓海さんが私に向かってひらひらと手を振る。
会社に戻ると、三人はなにやら話し合いをしているようだった。
「この前テレビでやってたチーズケーキ、買ってきちゃいました」
普段は行列が出来ているけど、今日は珍しく十五分ほど並んだだけで買えちゃったからラッキーだったな。後で食べよ。
冷蔵庫にチーズケーキを入れ振り返ると、三人共なぜか私に視線を向けている。
「……えっ?どうしたんですか?チーズケーキなら、みなさんの分もありますけど……」
そんなに一斉に見られると、なんか怖いな。
「柚原、ちょっとこっちに来い」
「はい……」
私、なにかしちゃったかな……。今日行ったクライアントでは特になにも問題なかったはずだけど。
「これ、どう思う?」
テーブルの上に置かれている紙を、私の前に差し出した。
「これ……って……」
「お前の感想を聞いたら、完了だ」
あの時感じた不安とか、今まで見てきたみんなの苦労とか、あの冷静な佐伯さんが頭を抱えていた後ろ姿とか……。
全部……全部が私の頭の中に鮮明に残ってて……。
会社で泣くなんて、そんなのは駄目だって分かってるけど、でも……。
「どうした、柚原」
「佐伯さん、私……凄く嬉しいんです。こんなにも、素敵なデザインが見れて……」
「泣いてないで、感想を聞かせてくれ」
「……はい。前に見た物よりも、ずっと凄い。私もいつかここで式を挙げれたらいいなって、そう思います」
とても単純な感想しか言えないけど、デザイン画だけでこんなにも胸がドキドキするなんて思ってなかった。
「じゃー決まりだな。これでコンペを勝ち取る」
凛々しい佐伯さんの横顔を見ているだけで、抑えようと思ってもやっぱり涙が溢れてしまう。