クールな御曹司と溺愛マリアージュ
『恵梨さん、大丈夫ですか?』

『あ……うん、大丈夫っていうか……』

地面がぐらついて、体が重くて、なんだかフラフラする。

私の様子を見て有希乃ちゃんも何か気付いたのか、心配そうに私の背中を優しく擦ってくれた。



『香港に行くから結婚を前提について来て欲しいと、僕から言いました』


彼は一体何を言っているんだろう。

入社した時からよく私に声を掛けてきてくれて、困った時はいつでも相談に乗るからと連絡先を渡してくれた事がきっかけで、頼もしくて皆の憧れだった河地さんは一年前『僕の隣でずっと笑っていてほしい』そう言ってきた。


仕事が忙しくてデートをする時間もなかなか取れなかったけど、彼は毎日私にLINEでメッセージをくれたし、愛してるという言葉もためらいなく伝えてくれていた。

確かに最近は以前よりもデートの回数は減っていたけれど、上手くいってないという実感は全くなかった。


いったい私の身に何が起こったんだろう。彼の頭の中ではきちんとストーリーが繋がっているのだろうか?私の中では全く繋がらないけど。


『私が退社することは、部長や人事課長には既に話してあります。皆さんには急な報告になってしまいますが……』


申し訳ないという気持よりも、嬉しいという感情の方が明らかに表情に表れている笹井さん。

エリートの彼氏が香港に連れて行ってくれるんだ、しかも結婚を前提に。そりゃ嬉しいに決まってる。


戸惑いと焦りと混乱ばかりだったけれど、二人を見ているうちに段々と怒りの感情が沸いてくるのを感じた。



『社内のアイドルをひとり占めしてしまってすいません』


っていうか、何笑ってんの?全然面白くないんだけど。

お腹の底からジンジンと音を立てて込み上げる怒りに、拳を握りしめる。


こんなドラマみたいな展開が自分に訪れるなんて思ってもいなかったけど、彼が何て言い訳をするのか、それを聞くまでこの怒りは治まりそうにない。


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