クールな御曹司と溺愛マリアージュ
今後の参考どころか、もう二度と恋は出来ないかもしれない……。


『香港へ行っても頑張って下さい』

『うん、ありがとね。恵梨も頑張って』


恵梨……なんて、呼ばないで欲しい。




一人で店を出ると、もう空は真っ暗だった。冷たい風が頬を横切ると、氷柱で刺されたかのような痛みを感じ、胸に手を当てた。


真っ暗なはずなのに、街の明かりのせいで嫌でも照らされてしまう。

楽し気な声も、街灯も、車の赤いライトも、イルミネーションも……今の私にとっては邪魔な存在でしかない。


失恋って、こんなに辛かったっけ?こんなに苦しいものなの?

だけどこの痛みは、河地さんへの想いが大きかったからとか、別れたショックとか、そういうことじゃない。


もう二度と、恋は出来ないかもしれない……。その恐怖からくる痛みだ。







『正直顔は笹井さんより可愛いのに、勿体ないなって』

『えっ?』

『いやほら、あんまり言いたくないんだけどさ……恵梨って、センスないんだよね。ダサいっていうか』

『ダ……ダサい……』

『付き合っていけば俺の好きな感じに変わってくれるかと思って服とか色々アドバイスしたのにさ、結局変わらなかったじゃん?』

それは……あまり好みの服じゃなかったり、私に似合わないような服ばかりを選ぶから。そう言いたいけど、声が出なかった。

『恵梨って意外に頑固だったよね。もっと俺色に染まってくれるような柔らかい雰囲気の子が好きなんだ。その点、笹井さんは俺の好みに寄せてくれるし、流行りにも敏感だ』

『……』

『せっかく顔は可愛いのに、一緒に並んで街とか歩けないっていうか。あ、ごめんね。でもちゃんと言ってあげた方が恵梨のためになるでしょ?』



今まで気が付かなかった、気付かないままの方がよかった。

これが私のトラウマ、そしてコンプレックス誕生の瞬間だった。


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