クールな御曹司と溺愛マリアージュ
新天地からの一歩
いつもと変わらない朝、パソコンに映し出されている経理システムの画面も何ら変化はないけれど、瞼が異様に重い。

「はぁ……」


昨夜、久しぶりに河地さんの事を思い出して泣いてしまったからか、なかなか眠ることが出来なかった。

それに、佐伯社長のことも……。

河地さんの時とは少し違っていたけど、受けたショックはどちらも変わりはないわけで。

「恵梨さんどうしたんですか?朝から溜め息ばっかりだし、珍しく眼鏡かけてて。面接、駄目だったんですか?」


腫れた目のせいでコンタクトが着けられず、今日は久しぶりに眼鏡をかけていた。もう五年も前に買った物だ。


「うん。多分、というか絶対駄目だと思う」

手は動かしながら有希乃ちゃんにそう言うと、昨日の佐伯社長の言葉が頭の中でリピートされそうになり、慌てて頭を振った。


「もし恵梨さんがワームデザインで働く事になったら寂しいですけど、でも恵梨さん凄いやる気だったから、受かって欲しかったな」

「ありがとね。でももういいの、切り替えなきゃ」


カタカタとキーボードを鳴らしながら仕事を続けていると、デスクの上にある電話から内線を知らせる音が鳴った。


「はい、経理課柚原です。……はい、はい、それはですね」

営業部の人からの出張費についての質問に遠くを見ながら受け答えをしていると、視線の先にいる人物を見た途端、一瞬息が止まった。


『……もしもし?』


「あっ、すいません。では二十五日までにお願いします」


体は石のように固まったまま、電話を切った後も視線を動かせずにいる。


どうして……。一瞬そう思ったけれど、すぐに自己解決した。


そうか、決まったんだ。



「あれ?なんか騒がしいと思ったら、噂のイケメン社長じゃないですか」


中腰になりパソコンの上から覗くようにして見ている有希乃ちゃん。気付けば女子社員のほとんどが同じ方向を見ているという異様な光景。

その全ての熱い視線を浴びているのは、部長と話しをしているワームデザインの佐伯社長だ。


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