クールな御曹司と溺愛マリアージュ
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佐伯さんをはじめとして拓海さんも成瀬君も、仕事中の姿は冗談を言い合っている時とはまるで違う。
無言でパソコンに向かったり、時々何かを相談するように合わせる目線もとても真剣で、あの成瀬君でさえ別人に見えてしまうほどだった。
それに引き換え私はというと、あまりやることが無いため佐伯さんが作った会社概要のような資料に目を通したり、パソコンで空間デザインについて調べたり、社内の掃除をしたりしている。
白い棚に並べられているデザイン関係の資料は高さや種類別に揃えられていて、わざわざ私が綺麗にするまでもないほど完璧に整えられている。
もしかして佐伯さんって凄い綺麗好き?それとも拓海さんかな?実は案外成瀬君だったりして。
「なにか気になるものでもあった?」
棚の前で腕を組んでいる私に、うしろから拓海さんが声を掛けてきた。
「いえ、凄く綺麗に整頓されてるなって思いまして」
「これはね、成瀬がやったんだよ」
「え?成瀬君が?」
答えは大穴の成瀬君だった。
「成瀬は若干引くくらい綺麗好きでさ、水回りなんかも使う度にきちんと拭き掃除をしてるんだ。まぁそんなことに時間を取れるのも今のうちだけどね」
ということは、忙しくなってきたらそれらは全て私の仕事になるんだ。みんなが他のことに気を取られず気持ちよく仕事が出来るように、そういう所にも目を光らせよう。
「ところで恵梨ちゃん。今日この後時間ある?」
「この後、ですか?」
拓海さんから壁に掛けてあるシルバーの時計に目を移すと、時刻は十九時を回っていた。
「全員揃って飲みに行くことなんてもうないかもしれないからな。さっさと行くぞ」
いつの間にか片付けを終えていた佐伯さんが私の横を通り過ぎ、ドアを開けた。
「えっ、えっ?待ってくださいよ」
ドアを開けたまま入口から早くしろと言わんばかりに私を見ている佐伯さんを横目に、急いで自分のデスクを片付けた。