クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「すいません、お待たせしました」


無言で鍵を閉める佐伯さん、気付けば拓海さんと成瀬君の姿が無かった。

「あれ?お二人は?」

「先に行った」


先に……ということは場所がどこか分からないけど、お店まではまた佐伯さんと二人ということか。せっかく少し慣れたかと思ったのに、二人だと思うとやっぱり緊張する。


「おい、いつまで突っ立ってんだ」

ハッと顔を上げると、佐伯さんは既に先を歩いていた。

焦って小走りで佐伯さんの少しうしろを歩く。


日が落ちた街並みを大通りに向けて歩き始めた私達に、会話はない。

歩きながらチラチラと佐伯さんの顔を見てみるけれど、綺麗な横顔だな……と思うだけで心臓が落ち着かなくなる。



「柚原」

「はい!」

信号で立ち止まった時、名前を呼ばれただけでビクッと肩に力が入った。


「それ、いつの眼鏡だ」

「眼鏡……ですか?」

今掛けている眼鏡にそっと触れると、面接で言われた佐伯さんの言葉が脳裏を過る。

ヤバい……新しい会社や仕事のこと、社員のみんなのことで頭がいっぱいだったから忘れてた。


「五年前に、買った物です」

「だろうな……」

またダサいって、思われてるのかな。

信号が青に変わり佐伯さんは歩き出したのに、私の足は途端に重くなってしまった。肩を落とし視線を下げ、なんとか佐伯さんのうしろに付いて行く。

人混みをぬって歩くのは得意なはずなのに、なんだか歩きにくい。


少し進んだところで佐伯さんが足を止めたので、お店に着いたのだと思いゆっくりと顔を上げると……。


「えっと……」


「黙ってついてこい」




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