クールな御曹司と溺愛マリアージュ
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『新会社設立に伴いワームが国内家具メーカー一位となる事が近年の、いや今年の目標だ』
朝から熱弁している白髪交じりの恰幅のいいワームの佐伯社長は、穏やかそうに見える表情とは反対にとても厳しい事は社内でも有名だ。
けれど仕事に厳しいからこそ、二代目で国内三位にまでのし上がれたのだろう。
『そう言えば新会社ってことは、ワームデザインにも社長がいるってことですかね?』
隣のデスクに座っている一年後輩の倉永有希乃(くらながゆきの)ちゃんが、視線は社長に向けたままうしろから小声で聞いてきた。
主張しすぎない薄いピンクのブラウスにスキニーのパンツ、長い髪は上手くお団子にまとめていて相変わらずお洒落で可愛い有希乃ちゃんからは今日もいい香りが漂っている。
おまけに優しくて性格のいい有希乃ちゃんとは、社内で一番気の合う同僚と言ってもいい。
『う~ん。そうだと思うけど、一応うちの会社の系列だし全く外部の人間を社長にするとは思えないし、今の専務とか役員がなるのかな?』
噂好きの女子社員達からも、そんな話は耳に入ってこなかったけど。
『……それでだ、紹介が遅れたがワーム・デザインの社長を紹介する』
社長の言葉をボーっと聞いていた私は、思わず目を見開いて顔を上げた。
当たり前だけど、やっぱりワームデザインにも社長がいるんだ。
『佐伯渉(わたる)君だ』
え?佐伯?
その言葉と同時に総務部へ足を踏み入れた人物を見た途端、周囲が俄かに騒めきだす。
『佐伯って、今佐伯って言いましたよね?社長って息子さんいたんですか?』
『分かんない。私も初耳だから』