クールな御曹司と溺愛マリアージュ
一時間ほど経過した頃、電話をしていた佐伯さんが慌ただしく身支度を整え始めた。

どこか出掛けるのかな?


鞄の中に手を入れると、そこには佐伯さんの家の物であろう鍵がある。

これ、返さなきゃだよね。でも泊めてないって言ったということは知られたくないのかもしれないし、みんなの前では返さないほうがいいのかな。

鍵を握りしめたまま考えていると、やはり佐伯さんは出掛けるようで拓海さんと話をしている。


「出るから、あと頼む」

ドアを開けて出て行ってしまった佐伯さん。手に伝わる鍵の感触が、私を急かすようで……。


「えっと、ちょっと……外の空気吸ってきます!」

私は鍵を握ったまま立ち上がり、上手い言い訳も出来ないまま急いで会社を飛び出した。


ほんの二分くらいの差だったと思うのに、佐伯さんの姿は見当たらない。

急いで大通り方面へと向かい、角を曲がった所で佐伯さんのうしろ姿を見つけた。


「佐伯さん!ちょっと待って下さい!」

私の声に気付いたのか、ピタッと立ち止まってゆっくり振り返った。


「あの、これ……」

緊張で手を少しだけ震わせながら、鍵を佐伯さんに手渡した。

何を言うんだろうと不安に駆られながらも佐伯さんの顏を見上げると、鍵から私に移った視線にドキッと胸が鳴る。


「ああ、じゃー行って来る。今日は会社には戻れないと思うから」

「はい、行ってらっしゃい……って、え?ちょ」


佐伯さんはそのまま私に背を向けて駅に向かってスタスタと歩き出してしまった。

それだけ……ですか?


後を追おうと一歩だけ前に足を出したけど、やっぱり追えない。

泊めてないって言ったのは佐伯さんだし、きっと拓海さんや成瀬君に知られたくなかったんだ。

多分私が凄い酔っ払って無理言って、佐伯さんを困らせたりしたから。

だから泊まったのは全部無かったことにしたいって、そう思われてるんだろうな……。


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