クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「なに見てるんですか?」

佐伯さんがいる場所まで行くと、両手に持ったグラスを真剣に見つめていた。

「これから来客もあるだろうから、こういうのも必要だろ」

「買いますか?」

「そうだな」

佐伯さんは私の手からカゴを持ち上げ、その中にグラスを入れた。


「私持ちますよ」

聞えているのかいないのか、私の言葉を無視して傍にあったお皿を眺めている佐伯さん。


「というか、この店安いのか?」

「えっ?」

「今のグラス、いくらだ?」


これは冗談を言ってるのか、それとも本気なのか……。真剣に悩む。


「あの……百円です。だってここ、百均ですから」


チラッと佐伯さんの顏を見上げると、唇を噤んで黙り込む佐伯さん。けれど耳は赤くなっている気がする。


「そ……そんなのは知ってる」


顔を背けてレジに向かう佐伯さんの後を追い横から覗き込むと、ほんのり頬を赤く染めていた。

ヤバい……こんなこと口に出したら怒られるけど、可愛すぎる。

見たことのない新たな一面に、思わず笑みが零れた。


「佐伯さんてもしかして、天然ですか?」

「は?誰がだ!今のはちょっとした勘違いだ。久しぶりに来たから忘れてただけで」

「分かりましたよ、拓海さん達には言いませんから」

「お前な、今すぐ帰らせるぞ」

「はいはい、すいません」


必死に言い訳する佐伯さんも、自然に言い返すことが出来た自分も全てが新鮮で、こんなくだらない会話でも私にとっては特別な瞬間で、嬉しいという気持ちが心を満たしていた。




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