クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「戻りました」
「遅いよ~、お腹がもう限界」
「ごめんね成瀬君。百均寄ってたんだ」
百均という言葉を出した途端、さっきの佐伯さんが浮かんできて思わずプッと吹き出してしまった。
横から視線を感じるけど、今絶対睨まれてるよね。
「さっさと食べて仕事するぞ。柚原、お前は二十一時までだ。分かったな」
「はい、了解しました」
真面目で冷静な表情も素敵だけど、照れたように俯いた佐伯さんの顔も私は好きだな。もっと普段からそういう表情すればいいのに。
「マジでどんどんの豚玉丼は神ですよ」
「よくこんな時間にそんな重い物食べれるな」
勢いよく豚玉丼を口に運んでいる成瀬君の横で、味噌汁だけを飲んでいる佐伯さん。意外と健康志向なのかな。
「恵梨ちゃんサラダだけ?お腹空かないの?豚玉丼美味しいよ」
「うん。私もこの時間に丼物はちょっと厳しいから」
というのは言い訳で、佐伯さんの前でどんぶりを食べるのは抵抗がある。一応私も女だし、恥ずかしいという感情だってちゃんと持ち合わせてるんだ。
「女の子はそういうの気になっちゃうよね。でもあんまり食べないのもよくないから、遅くなりそうな時は早めに食事を取るようにしよう」
「はい。分かりました」
拓海さんはいつも本当に優しくて、中華丼を食べる姿もなんだかスマートに見えてくる。
「なに言ってんだ。飲みの時は最後まで散々食べてたくせに」
「そ、それは……無意識です!」
確かにあの日は沢山食べて飲んでしまったけど、なにも今それを言うことないのに。佐伯さんって本当に意地悪だし女心を分かってない。少しは拓海さんを見習えっての。
だけど、こうやって一つのテーブルを囲ってご飯を食べるのはとても不思議で、ここが会社だということは分かっているのになんだか楽しいと感じてしまう。