クールな御曹司と溺愛マリアージュ
 *

食事を済ませて仕事を続けること一時間。あっという間に二十一時を回ってしまった。

佐伯さんは気付いていないようで、その白い背中はパソコンの画面に集中しているようだ。


二十一時までだって言われたし、帰った方がいいよね。これ以上時間が過ぎてしまったら、明日からもう残業させてもらえなくなりそうだし。

デスクの片付けをしていると、佐伯さんが「よし」とひとり言を呟き席を立った。

鞄を出している私を見て気が付いたのか、時間を確認した佐伯さんが無言で頷く。


「あの、私そろそろ帰ります」

食事の後からずっとデザインに集中している成瀬君の邪魔にならないようにと、なるべく小さな声でそう言って席を立った。


「恵梨ちゃんお疲れさま、明日は朝少しゆっくりしなね」

「分かりました。少しだけゆっくりさせてもらいます」

私の言葉に微笑んだ拓海さん。頑張っている成瀬君の背中を少し見つめ、佐伯さんにも挨拶をしようと鞄を持ち上げると、何故か佐伯さんはジャケットを羽織っていた。


「寒いんですか?」

「なに言ってんだ、帰るんだよ。切りのいいところまで終わったからな。じゃー拓海、明日の件頼むな」

拓海さんは指でOKサインを出し、私達に背を向けた。


「行くぞ」


ドアを開けて会社を出た佐伯さんに続き、私も慌てて外に出た。


当然だけど外は真っ暗で、周りのビルのほとんどが明かりを失っていた。

そんな中で私を待つかのように街灯の下に立っている佐伯さん。駅まで一緒にってことなのかな?


「あの、お疲れ様です」

「ああ、お疲れ。送っていく」

「……?」


< 69 / 159 >

この作品をシェア

pagetop