クールな御曹司と溺愛マリアージュ
膝の上に置いた手をソワソワと動かしながら押し寄せてくる緊張に耐えていると、ドアが開いて初見さんが出てきた。

また何か言われるのかと思うとうんざりしてしまうけど、予想に反して初見さんはハンカチを目元に当てながら鼻をすすっていた。


えっ、泣いてる?


入る前の自信満々な初見さんは何処へやら、無言で私の前を足早に通り過ぎて行ってしまった。


一体何があったんだろう。気にはなるけど私の前の人が会議室に入っていったという事は、次はいよいよ私の番だ。


順番が来るまで気持ちをもう一度落ち着かせようと深呼吸をして目を瞑ると、カチャッとドアの開く音が聞こえ驚いて目を開ける。


僅か五分程で前の人が出てきてしまった。

一人一人の面接時間はバラバラだったけど、それにしても五分って短くない?


「次の方どうぞ」


色々気になるけどあれこれ考えている余裕はなくて、中から聞こえてきた声に慌てて立ち上がった。


ーーコンコン


「失礼します」


ドアを閉め再びお辞儀をして顔を上げると、横長のテーブルの前には二人の男性が座っていた。ひとりは勿論先日社内で挨拶をした佐伯渉社長。


「どうぞお掛け下さい」

もう一人の男性にそう言われ、私は頭を下げて椅子に浅く腰掛けた。


「では面接を始めたいと思います。佐伯社長の事はご存知だと思いますが、私はワームデザインの伊勢谷(いせや)です。ではお名前と部署名をお願いします」


「はい。総務部経理課の柚原恵梨です」


声が若干震えてしまうのは緊張しているからだけではなく、小さな会議室に漂うこの独特な空気と佐伯社長の視線のせいだ。

佐伯社長はずっと黙ったまま私を凝視している。

正直その突き刺すような視線が怖い。


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