クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「ベルト締めろよ」

「あっ、はい」

私が焦ってシートベルトを締めたのを佐伯さんが確認すると、車がゆっくりと動き出した。


なんで、どうしてこんなにドキドキするんだろう。男の人の車に乗るなんて、別に初めてのことではないのに。


「柚原の家の駅方面に行くから、近くなったら口頭で説明しろよ」

「はい、分かりました。あの、本当にわざわざすいません」

「別に。通り道だから送ってやるだけだ」


言葉はぶっきら棒だけど、やってることはとても優しい。

眼鏡の時も、家に泊めてくれた時も、全部……。


面接の時は、なんて失礼で嫌な人なんだと思ったけど、一緒に仕事をしていくうちに佐伯さんの時々見せる不器用な優しさが伝わってきて、私は……。


チラッと運転している佐伯さんを見ると、いつもと変わらない綺麗な横顔に、思わず顔が熱くなった。

何か話したいのに、会社とは全然違う空間に緊張して言葉が出てこない。


あの広い部屋と同様に車の中もとても綺麗だけど、成瀬君ほどじゃないにしても佐伯さんもやっぱり綺麗好きなんだ。

綺麗な物が好き……私も、綺麗になりたいな……。



「そういえば、最近眼鏡してないのか」

「え、あっ、眼鏡はコンタクトが調子悪い時だけなんで。でも、佐伯さんが選んでくれた眼鏡、とても気にいってます」

「そうか」


あの眼鏡は初めて私に自信をくれた大切な宝物だから。大事に決まってる。

泊まった時に用意してくれた服もそうだけど、佐伯さんが選んでくれた物を身に付けると、少しだけ前を向ける気がするから。


服……。そうだ!あの時の服のことを聞かなきゃ。



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