クールな御曹司と溺愛マリアージュ
タイミングがなかなか無かったのと、正直『泊まってない』という佐伯さんの言葉が気になって聞いちゃいけない気もするけれど、あの服は私の物じゃないし……。


「あの、佐伯さん」

「ん?」

「あの日、私が酔いつぶれてしまった日……本当に、色々迷惑かけてしまってすみません」

「別に、気にしてない」

前を向いて運転している佐伯さんは、特に気にする様子もなく表情に変化もない。

やっぱり、どうやって話を切り出したらいいのか必死になって考えたり、こんなにもドキドキしているのは私だけなんだ。


「それで、ずっと言えなかったんですが……。あの服は、どうしたらいいでしょうか?本当に今更ですみません」

信号で止まると佐伯さんは少し視線を上げて考えた後、思い出したかのように「あぁ~」と呟いた。


「あれは柚原にやるよ。返されても困るし」

「でも、あの、じゃー私買います」

やると言われても、とても高そうに見える服だったし、迷惑を掛けた上にもらうなんて出来ない。


「いいって言ってるだろ。わざわざお金を徴収するほどの物じゃない」

「だけど凄く素敵だったし、あんな服いただけません」

「素敵だと、そう思うか?」

「はい、とても素敵でした。着る前は不安でしたけど、あの服を着た自分を鏡で見た時とても嬉しくて、思わず泣きそうになったくらいです」

「そうか。ならよかった」

一瞬私の方をチラッと見た佐伯さんの目に、また胸が高鳴る。


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