クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「なので、買わせて下さい」

いくらいらないと言われても、このまま素直に「分かりました」とは言えない。

「お前、あの服がいくらするか分かるか?」

「えっ?生地もとてもしっかりしてて肌触りが良かったし、高そうだな……とは思いました」

すると佐伯さんは、口元に少しだけ笑みを浮かべた。


「あのな、あの服は高い物じゃない。〝ささむら〟で買った物だ」

ささむらって、あの激安で有名なファッションブランドの?

信じられないという表情で口を開けている私を見て、今度はクスッと笑った佐伯さん。


「お前の好きな、〝値段の割に生地がしっかりしてる〟服だ。それなら文句ないだろ」

面接の時に私が言い放った言葉を引用した佐伯さんに、あの時の喧嘩腰だった自分を思い出して堪らず俯いた。


「でも……それでもお金はかかってるわけで」

小声でそう言うと、横から溜め息が聞えてきた。

社長なんだからこれくらい……なんてこと、思えるはずない。

社長だろうが平凡なOLだろうが、私には佐伯さんから服をもらう理由なんてないんだから……。


「お祝いだ……」

「えっ?」

パッと顔を上げ、佐伯さんの横顔を見つめる。


「あれは俺からの、合格祝いだ。四の五の言わずに黙って受け取れ」


「佐伯さん……」


「それと、面接の時……お前を傷つけるようなことを言ってしまって、申し訳なかった」


そんなこと言われてしまったら、もうこれ以上反論はできなくて。

佐伯さんの横顔を見つめながら、温かな涙が溢れそうになるのを必死に堪えていた。


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