クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「そろそろ駅近くだぞ」

「はい、えっと、二つ目の信号を右に曲がって、踏切を渡って下さい」

もうこんな所まで来てたんだ。話に夢中で外を見ていなかったから気付かなかった。

「踏切を渡ったら先の信号を左に曲がるとコンビニがあるので、そこでいいです」


私の案内通り、コンビニに車を止めた佐伯さん。

「今日は本当にありがとうございました」

佐伯さんの運転はその性格と同じでとても冷静で静かで、安心できる束の間のドライブだった。


「最後にもう一つ、聞いてもいいですか?」

「いいけど」

「あの日……私が目覚めたのは、佐伯さんの部屋ですか?」

「……そうだ」

「でも佐伯さんは、私を家に泊めてないって拓海さんに言ってましたよね?なにか迷惑をかけてしまったのかとずっと不安で」


腕を組んで少しだけ考えた後、佐伯さんは前を見たまま答えた。


「他の二人に泊まったことが知られたら、お前だって気にするだろ。気にし過ぎるところもあるようだし、仕事がし難くなったら困るからな。それだけの理由だ」


それだけ、だなんて……私が会社で気まずくならないようにと気を遣ってくれたということなんだ。

拓海さんも成瀬くんも変にからかったりするような人じゃないけど、でももしあの時佐伯さんが嘘をついてくれなかったら、私はどうしていいのか分からなかったと思うから。

佐伯さんが私の為に嘘をついてくれた、私にはそれで十分です。



「柚原……」

「はい」

「俺がいないところでは、もう飲み過ぎるなよ。……社員が他の人に迷惑をかけたら、社長として困る」


私から視線を逸らすように反対側の窓の外を見ている佐伯さん。

けれどその窓には、恥かしそうに微笑む佐伯さんの目が映っていて、少しだけ見える耳は赤く染まっていた。



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