クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「後先考えずに突っ走れたらどんなにいいか……」

「突っ走ればいいじゃないですか」

「そうは言っても佐伯さんはああいう人だから気持ちが全然分からないし。気まずくなるのだけは避けたい」


溜め息をついて俯く私を見て、有希乃ちゃんは少し強めにジョッキをテーブルに置いて体を私の方に向けた。


「それでいいんですか?それが恵梨さんの本心なんですか?」

「……」

「相手の気持ちが読めなくて悩んでるのは、恵梨さんだけじゃありません。ていうか、気持ちが読めたら恋愛に悩みは必要なくなりますよね?」

「……うん」

「ハッキリ言いますけど、恵梨さんもう二十七歳なんですよ。今自分の気持に正直になって行動しなきゃ、佐伯さんと過ごす一日一日はもう二度と戻ってこないんです。
残り少ない二十代を、無駄に終わらせるつもりですか?」


佐伯さんと過ごす時間……、無駄になんてしたくない。


恋をするのが怖くて踏み出せなかったのに、佐伯さんと過ごす中で私は自然と彼に惹かれていった。

きっと私はこれからも佐伯さんの意外な一面を発見しては、ドキドキさせられるんだろうな。

そして、もっともっと佐伯さんを……。


「私、佐伯さんが好き。誰かの為に自分を変えたいって思うほど好きになったのは初めてなんだ。好きだから……頑張りたい」


同じ会社だからとかダサいとかセンスがないとか、逃げ道を作る為の言い訳は必要ない。

自分を磨いて仕事を頑張って、少しでも佐伯さんに私を見てもらいたいから。

諦めることはいつでもできる。でも、頑張る前に諦めるくらいなら、好きになんてならない方がましだ。


「恵梨さん、今すっごく良い顔してますよ。恋のパワーってやつですね」


怖くて、もう絶対に恋は出来ないと思っていたのに、今前を向いて歩きたいと思えるようになったのは、他でもない〝恋〟のお陰なんだ。

佐伯さんのさりげない優しさを思い出すたびに、胸が苦しくなるくらい……好き。




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