クールな御曹司と溺愛マリアージュ
自信からの弱音
駅のホームにある薄汚れた鏡には、昨日買ったばかりの服を身に纏った自分が映っている。
これで大丈夫だろうか。自信はないけれど自分なりにいっぱい考えたし、ベルトは佐伯さんからもらった物なんだから間違いないはず。
だけど、この髪型だけはどうにもならなかった。
変えたところと言えば、いつもはうしろにまとめている髪を横に結んだくらいだ。
こんなことなら、この前の休日に美容院に行くべきだった。久し振りに一日ゆっくりできたというのに、録画していたドラマをゴロゴロしながら見ていただけなんて、今考えたらとんでもなく無駄な休日を過ごしてしまった。
でも今さら後悔してももう遅い。
腕時計で時間を確認した私は、佐伯さんとの待ち合わせ場所に向かった。
五分前には着いて佐伯さんを待っていたいけど、どうやら十分も前に着いてしまいそうだ。
まぁ時間ギリギリで焦ったり佐伯さんを待たせるくらいなら、早く着いた方がましだけど。
それにしてもさすが若者の街だな。キラキラした今時の若い子が沢山いて、アラサーの私にはとても眩しく見える。
渋谷には殆ど行かないからか、余計にそう思ってしまう。
午前中だというのに、ハチ公前の人だかりを遠くから見ただけで目が回ってしまいそうだ。
どこで待とうかな。探させるのは悪いから、なるべく目立つ所に立っていようか。
そう思いながら歩き出すと、すぐに想定外の光景が目に入り思わず足が止まってしまった。
ハチ公の真横で腕を組んで立っている佐伯さん。そのスーツ姿はまるでモデルかのようで、ハチ公と一緒に今にも撮影が始まりそうなほどだ。
周りにいる人もチラチラと佐伯さんを見ているようだった。
なんで?どうしてもういるの?
一瞬私の時計が壊れているのかと思ったけれど、そんなはずない。
急いで佐伯さんの元へ駆け寄った。
「おはようございます。早いですね」
佐伯さんを待っている間にドキドキしている心を落ち着かせる予定だったのに、しょっぱなから完全に息が上がってしまっている。
「予定より早く着いたんだ」
「お待たせしてすみません」
「いや別に。待つのは嫌いだが、待たせるのはもっと嫌いなだけだ」
私はこんなにも動揺しているというのに、佐伯さんは涼しい顔ですぐに歩き始めてしまった。