クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「今日はどうしますか?」

「あ、えっと……」

助けを求めるかのように佐伯さんの方を見るけど、佐伯さんは雑誌に夢中なようで気付いてくれない。

「なんかこういう感じ、とかイメージありますか?」

イメージなんかない。あったらとっくにそれをやっているだろうから。

「お任せします。あの、似合う髪型にしてください」

佐伯さんの知り合いなんだから、河村さんに全てを託そう。

「分かりました。じゃー早速カットしますね」


美容院で緊張したことなんてもちろんないけど、どうなっていくのか分からない不安と都会にあるお洒落な美容院の雰囲気が、勝手に緊張感を増していく。


河村さんは華麗な手つきで軽やかにハサミを入れている。

適当に切っているようにしか見えないのに、最終的にはちゃんと形になるんだから美容師さんって本当に凄い。


顔は前を向いたまま目線だけを斜め下に向けると、思ったよりも髪の毛が沢山落ちていた。

長さはあまり変わったようには見えないのに。


鏡の中には、足を組んで雑誌を読んでいる佐伯さんが映っている。全て終わった時、佐伯さんがどんな顔をしてくれるのか、楽しみなようでちょっと不安だ。


「とりあえず一回カラーして、その後またカットしますね」

「はい、分かりました」

半乾きの状態だといまいち分からないけど、なんだか頭が軽くなったような気がする。



その後カラーをした後髪を乾かすと、光が当たると分かる程度の自然な茶色に染まっているのが分かった。

最後の仕上げのカットをしている間も、私は雑誌を手にすることなくずっと鏡を見ていた。

「だいぶ変わってきましたね」

「はい」

少しずつ少しずつ変化していく髪型を見てると、とても不思議な気持ちになる。


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