クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「仕上げに少し艶が出るスプレーしておきますね」

「ありがとうございます」

さっきから、鏡に映る自分が自分ではないような気がして、凄く胸がドキドキする。


ふと鏡の中の佐伯さんを見ると、雑誌を置いてこちらを見ていた。

ーーどうでしょうか……?

そう言いたげに無言で見つめる。


「こんな感じです」

「す……素敵です」

自分の髪型を自分で素敵だと言うのは変だけど、でも本当に素敵だと思った。

パーマをかけたり長さを極端に変えたわけではないのに、微妙な癖毛を上手く活かして全体的に軽くなった。

今まで色んな美容院に行ってみたけど、美容院にもやっぱり相性ってあるのかな。


「長さは結局二センチくらいしか切ってないけど、たいぶ軽くしたからスッキリしたでしょ?」

「はい。なんか、自分の髪じゃないみたいです」

髪に触れながら河村さんと話をしていると、佐伯さんが立ち上がってゆっくり近づいてくるのが分かった。


「あ、佐伯さん。佐伯さんのところの大事な社員さん、凄く綺麗になりましたよ」

この河村さんの言葉に、佐伯さんは何て答えるのか……。その口が開くのをジッと待つ。



「そうか、じゃー時間ないから行くぞ」

「え?あ、はい。でも支払いが」

「俺が勝手に紹介したんだからいい」

「いいって、でも……」

なんか前にもこんな会話をした気がするけど、私は財布を出して入口横にあるレジに向かった。


「もう払ってあるからいい。とりあえず邪魔になるから行くぞ」

そんな……、でも美容院は混んでいて本当に忙しそうだし、後で佐伯さんにはちゃんと払おう。

河村さんにお礼を言った私は、急かされるようにして美容院を後にした。



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