クールな御曹司と溺愛マリアージュ
「待ってください」

スタスタ歩く佐伯さんの元へ、小走りで駆け寄る。

「あの、本当にお金払います」

「はぁ……、柚原はほんと頑固だな」

「佐伯さんに言われたくありません」

お馴染みになった佐伯さんの溜め息なんかじゃ、もう私は引かない。


「こんな道端で財布出してやり取りする気か?」

確かに朝通った時よりも、明らかに人の数が増えている。

「じゃー後で、仕事終わったら絶対返しますから」


聞こえていると思うけど、私の言葉を無視して歩く佐伯さんがチラッと腕時計を確認した。

それを見て私も自分の時計を確認すると、十二時半になろうとしていた。

クライアントまではここから遠くないし、丁度五分前くらいに着く感じかな。

美容院で掛かる時間とか全部計算済みなんだとしたら、佐伯さんって本当に凄い。


「柚原はクライアントの話しを聞くのは初めてだけど、資料も勿論もらえるが、とりあえずメモは必ず取れよ」

「はい、分かりました」

さっきまで美容院でカットしてもらっていたのに、その数分後には仕事モードか。切り替えなきゃ。




「髪型」


「えっ……?」

信号で止まったところで佐伯さんの横に立つと、佐伯さんは私の髪の毛にそっと触れた。


突然の出来事にハッと息を飲み、同時に胸が激しく脈を打つ。



「その髪型、似合ってる。……綺麗だ」


「佐伯さん……ありがとうございます」



信号が青に変わると、佐伯さんはまた早い足取りで歩き出した。


私はそのうしろを、俯きながら小走でついていく。

だって今なら佐伯さんの背中を見るだけで、きっと顔がニヤケてしまうから。




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