クールな御曹司と溺愛マリアージュ
クライアント先であるイタリアンレストランに到着した私達は、イタリアで八年修行してから渋谷にお店を出したという色黒ダンディーなオーナーと、新店舗の色白爽やかシェフと共に打ち合わせが進められた。


お店の中にはひと際目を引く可愛らしい暖炉や、白いテーブルクロスが掛けられたテーブルに木の椅子、キッチンは客席から一部が見えるようになっている。


「…ということは、こちらの表参道店とは差別化を図りたいということですね」

「はい。表参道店は、どちらかというとアットホームな家のような雰囲気を意識しましたが、青山では少し高級感も出してほしいんです」

「なるほど」


佐伯さんやオーナーの言葉にちゃんと耳を傾けてはいるものの、ワーム時代からずっと事務職しかしてこなかった私にとっては、メモを取るだけでも精一杯だ。

なにか大事なことを書き忘れてはいけないからと、三人の会話を聞き逃さないように必死だった。


「いや~でもまさか佐伯さんの会社でデザインを引き受けてくれるとは、とても楽しみです」

佐伯さんがイタリアの家具メーカーでデザイナー兼インテリアコーディネーターとして働いていたことは以前拓海さんから聞いていた。

もしかしてオーナーとはその頃に知り合っていたのかな。


「いえ、それはこちらの台詞ですよ」

オーナーに向けて爽やかスマイルを振りまいている佐伯さん。


あの、ていうか……仕事の打ち合わせでお客様と会う時は、そんな感じなんですね。

会社では殆ど見せない笑顔を、これでもかと惜しみなく放出している。

これは作り笑顔ということ?それとも無意識?ますます佐伯さんが分からない。



「では、なにかありましたらご連絡させて頂きますが、今日はこれで失礼します」

佐伯さんと共に立ち上がった私は、深くお辞儀をした。

「そうだ佐伯さん、お時間があれば折角だからお食事をしていってもらえませんか?」

食事?ここでイタリアンを頂けるということなのかな。そういえば今日はまだ昼食をとっていなかった。


「今日は可愛らしい社員さんも一緒ですし、ランチタイムのピークはもう過ぎてますから、是非」

「そうですか、分かりました。食事を頂いたらまたイメージも沸くかもしれませんね」


私が口を挟む間もなく、このまま佐伯さんとここで食事をすることが決まってしまった。

勿論嬉しいけど、こんな形で二人きりの食事が実現するなんて思っていなかったから、正直緊張する。


オーナーに案内された席は暖炉の手前でキッチンがよく見える位置だけれど、柱があって隣とは少し離れているからか、他の席よりも若干プライベート感がある。




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