届かないこの想いを、胸に秘めて。





「……あ、やっと笑ってくれた」

キミが柔らかい声音で言って、私は緩んだ口元がだんだん閉まっていった。


そして、ゆっくり顔を上げてキミを見た。


もう頭にはぬくもりが感じられなかった。
でも、キミの優しい眼差しがとても温かくて、心の奥がキュッとなった。



「なんか、浮かない顔してたから。……最近」

だから笑顔が見れて安心した、って笑いかけてくるから私は目を見開いた。


なんでかな。心が温かくなるのに、苦しい。
嬉しいのに、なぜだか切なくなる。




……ねぇ、キミは本当に香奈恵ちゃんが好きなの?


ふと記憶がよみがえり、あの日キミが言った言葉を思い出した。



聞くなら今なのかもしれない。


私はスカートをぎゅっと握りしめた。








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