届かないこの想いを、胸に秘めて。





「あー、あれね。……『好きなんだ』でしょ」


笑いながら言うキミに私はドキッとした。



「おれ、その時興奮し過ぎてとっさに出ちゃったんだよね」

「あれは、びっくりしたよ」

「ハハ、だよね」



首に手を添えて恥ずかしそうに言うキミ。
それに対して、香奈恵ちゃんも思い出して笑っていた。


私と和海ちゃんはその話の原点が分からなくて、顔を見合わせて首をかしげた。



「西本の方向から爆音が聴こえたんだよ」


好きなアーティストの、と首をかしげた私たちを見て言った。


それに続いて香奈恵ちゃんもその状況を説明した。




私を待っている時に電話がかかってきたんだとか。
スマホの着信音をサイレントにしていたつもりが、大爆音で鳴ってしまったところに、中村くんがやって来たんだと。




それを聞いた瞬間、心がふわっとした。そして綺麗に色付いていく。
灰色が、淡い桃色に。



……な、んだ。私ってば、ものすごい早とちりを。


なぜか、喉が熱くなってきた。

きっとホッとしたから。真実を知れたことに。



心の底から、『よかった』と思った。
だいぶ自分勝手だなって思う。



キミの好きな人が香奈恵ちゃんじゃなくて良かったなんて思ってる。
そして、キミの表情は真実を語ってると思ったから。


最低かな。そんな風に思ってしまう私って。


こんなにも独り占めしたいだなんて、今まで思ったことないよ。







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