届かないこの想いを、胸に秘めて。






──ガラッ。


数分後、保健室のドアが開いた音に顔を上げて見た。



『あら〜、派手にやったわね』

とにこやかに近付いてくる保健室の先生に私は問いかけた。



『あの、男の子って……』

『ああ、教室に行ったわよ。よろしくお願いしますって言って』


ふふふ、と意味深な笑みを浮かべた先生は消毒液とガーゼ、絆創膏を手にして私のそばにしゃがんだ。




……そっか。行っちゃったんだ。
お礼、言えなかった。
また、会えるかな……。

……同じ学校なんだから会える、よね。



消毒の痛みに耐えながら、私はここまで連れてきてくれた彼を思った。
まだ、名前も学年も知らない男の子を。




手当てが終わると『ありがとうございます』と頭を下げて、保健室を出た。









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