届かないこの想いを、胸に秘めて。




修学旅行まであと3日と迫った放課後のこと。


帰る準備をして、席替えしたばかりの新しい席にいる香奈恵ちゃんの近くへ寄った。

その時、前のドアから私を呼ぶ声が聞こえたんだ。



香奈恵ちゃんの席は和海ちゃんがいた廊下側から2列目の一番前の席。

和海ちゃんはこちらに向かってる途中だった。



教室には私たちしかいなかったから、彼女は私たちに目を向けた。


愛嬌のある大きな瞳をした彼女に、噂通りの可愛い子だなと思った。

間近で見るのは今日がはじめてだった。





「長田雪菜、ちゃん?」


彼女の声が私を呼んだ。私を見て。


ぎこちなく頷いたあと、なんで私って分かったのだろうと不思議に思った。




「あ、びっくりしたよね!ごめんね、淳介からよく聞くから、つい」


ふわりと笑いながら教室に入ってくる彼女とは反対に私は笑顔をつくることができなかった。



キミの名前を普通に呼ぶ彼女の言葉に、心が痛くなったから。




「あたし、桃田紗姫っていいます。よろしくね!」



差し出された手を凝視した。
握手を求められているのはわかる。だけどなぜか躊躇した。



なにか予感がしたんだと思う。


なぜ、ここに彼女が来たのか。
なぜ、私にわざわざ会いに来たのか。


その理由が──。








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