届かないこの想いを、胸に秘めて。





「長田さん!」


そう呼ばれた声に足を止めて、振り向いた。


この時間帯は真っ暗だから街灯だけが頼りで、薄く明るいんだけど、顔が見えない位置にその人がいるから誰だか分からない。


でも声には聞き覚えがあった。



近寄ってくると名前を呼んだ人物が明らかになった。




「……鴇田くん」

「よかった〜!違ってたらどうしようかと思った」


目の前で笑う彼を見上げる。



……走ってきたのかな?

肩を小さく上下させているから。
勘違いかもしれないけど。





「途中まで一緒に帰ろ」




──っ。




鴇田くんが私の顔をのぞき込みながら言った時、キミと重なって見えた。


なんでいま、思い出すんだろう……っ。


あの時のキミもこうやってのぞき込みながら聞いてきた。



『途中までいい?』って。




あ、れ。どうしよう。涙が。


ぼやけた視界の先に鴇田くんの戸惑った顔が見えた。



「っ……ごめ、」

「と、とりあえず、どっかで休も」


そう言って私の手首を掴んで歩く。


止めたくても止められなくて。悔しくなった。

迷惑をかけてしまった罪悪感も同時に襲ってきて、彼の背中に謝った。



< 188 / 306 >

この作品をシェア

pagetop