届かないこの想いを、胸に秘めて。
「長田さん!」
そう呼ばれた声に足を止めて、振り向いた。
この時間帯は真っ暗だから街灯だけが頼りで、薄く明るいんだけど、顔が見えない位置にその人がいるから誰だか分からない。
でも声には聞き覚えがあった。
近寄ってくると名前を呼んだ人物が明らかになった。
「……鴇田くん」
「よかった〜!違ってたらどうしようかと思った」
目の前で笑う彼を見上げる。
……走ってきたのかな?
肩を小さく上下させているから。
勘違いかもしれないけど。
「途中まで一緒に帰ろ」
──っ。
鴇田くんが私の顔をのぞき込みながら言った時、キミと重なって見えた。
なんでいま、思い出すんだろう……っ。
あの時のキミもこうやってのぞき込みながら聞いてきた。
『途中までいい?』って。
あ、れ。どうしよう。涙が。
ぼやけた視界の先に鴇田くんの戸惑った顔が見えた。
「っ……ごめ、」
「と、とりあえず、どっかで休も」
そう言って私の手首を掴んで歩く。
止めたくても止められなくて。悔しくなった。
迷惑をかけてしまった罪悪感も同時に襲ってきて、彼の背中に謝った。