届かないこの想いを、胸に秘めて。
「よし!もう帰ろう!」
両手を両膝に手を置いてから立ち上がった鴇田くんは、明るめの声で言った。
手に持ったココアは完全に冷えきっていて、随分長くここにいたんだなと実感する。
でもそばにある柱の上に掛かってる時計を見ると、たったの10分しかいなかったことに気付いた。
泣いてしまったせいか体が火照っていて、寒さをあまり感じなかった。
「ごめんね。なんか……」
「いや、いいんだよ。俺もなんか余計なこと言っちゃったし」
変わらない表情で私を見て言う鴇田くんは、なんだかスッキリした顔をしているようにみえた。
たぶん街灯によって明るくなった顔を見たからだと思う。
本当は、苦しくて泣きたいはずなのに。
「ん?どうかした?」
「ぁ、……ううん!なんでもないよ」
慌てて言うと、「そっか」と少し残念そうな表情をして言ってから歩き出した。
私もそれに続いて隣を歩く。
公園の出入口は階段になっていて、一段一段慎重に降りていった。
「長田さん」
鴇田くんの声が後ろから聞こえた。
振り向く前に体が回されて、全身にぬくもりを感じる。
視界が薄暗くて、瞬きをした。
「と、ときたくん!?」
驚いて名前を呼ぶけど反応はなくて、ただ耳元で聞こえる彼の音は大きく脈を打っていた。