届かないこの想いを、胸に秘めて。
学校まで私たちは他愛のない話をしていたから、途切れることはなかった。
ほとんどが鴇田くんのマシンガントークだったから。
本当のことを言うととても助かっていた。
あまり男の子と喋らないから、こういう時どう話したらいいか分からないし。
『他愛のない話』といっても、自分の家族のこととか、好きなアーティストとか、食べものとか、いろいろ。
いわゆる、自己紹介。
今更だと思いながらも、私も時折自己紹介をした。
下駄箱には数人いて、クラスメイトと顔が合えば挨拶を交わす。
隣で上履きに履き替えてる鴇田くんも、同じように挨拶をしていた。
「あ、長田さん!先に行ってていいよ」
少し先を歩いた私に後ろからそんな声が飛んできた。
反射的に振り向く。
隣にいるのは彼の友達だろうか。
その人が鴇田くんの肩に腕を回しながら、突っついている。
それに対応しながら私に「ありがとう」と手を振った。
前に向き直って、教室を目指す。
渡り廊下を歩いていると、下駄箱へ向かうキミの姿を見かけた。
その途端にドキンと大きく跳ねる鼓動。
眠たそうに口元を隠しながら少し上を向いたキミを見て、かわいいと思ってしまった。
あくびをしてる何気ない動作に。