届かないこの想いを、胸に秘めて。





駅に辿り着くと鴇田くんと改札を出て二手に別れた。


私が先にホームに着いたみたいで、数秒後に向かい側のホームに鴇田くんが現れた。


お互いに手を振る。


少し恥ずかしい。周りには人はほとんどいないのに、なんだかドキドキさせた。



鴇田くんの顔は笑ってるけど距離があるから、はっきりとは分からない。

けど、もしかしたら彼も私と同じように思っているかもしれない。




しばらくすると向かい側のホームに電車が来た。


彼の姿が一度見えなくなって、ドア越しに姿を現した。


鴇田くんは私を見てまた手を振った。
それに私も応える。



とても嬉しそうに笑う彼とは反対に、私は恥ずかしくて笑った。

たぶん私の顔は少し赤く染まっていると思う。





電車を見送り、近くのベンチに腰をかける。


いつかキミが本を読んでいた位置だと、しばらくしてから気付いた。


ふと空を見ると、まだ厚い灰色の雲がかかっていた。





いつだってキミを想うと目に浮かんでくる。


笑ったり、怒ったり、悩んだり……いろんな表情をしたキミの姿が。







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