届かないこの想いを、胸に秘めて。





やっぱり鴇田くんの気持ちには応えられない、かもしれない。

だって彼がいる傍でも、キミのことを探して想ってしまうんだ。



つくづく私は最低な人間だと思う。




……ごめんね、鴇田くん。


近いうちに伝えないといけないと思うと、心が痛んだ。


意図的に空を見上げる。少し雲に隙間がみえた。




あと2分くらいすれば電車が来る。
ホームにはさっきよりも人が集まってきていた。向かいのホームも。



何気なく、横を向いた。




胸がドキッとしたのは、見覚えのあるシルエットを目にしたから。


つい小さく声を上げて、とっさに口をつぐむ。

私の声はやっぱり聞こえていないらしく、キミは本に夢中だった。



ほんの少し。本当に少しだけ、残念に思った。




やっぱキミには届かないって。

小さな声でも、キミは私を見つけてもらえないって。

ホッとしているのに、どこか寂しい。




──……ねぇ。こんな小さな声でも届かないのなら、同じようにして伝えてもキミには届かないのかな?







< 203 / 306 >

この作品をシェア

pagetop