届かないこの想いを、胸に秘めて。





私は深呼吸を2回した。

それでも治まることはなくて……。




「好 き」



消え入りそうな声で静かに言った。


本を読んでいるキミの横顔に。





……ほらね。やっぱりキミには──っ!



『届かない』そう感じたときだった。





え。……う、そ。


そんな、だって。

まさか……!



ちがう。そんなはずはない。これはたまたまだよ。

偶然、だ。


私の言葉なんて聞こえるはずない。絶対に。




でも、キミは通じたかのように私をみた。
そして手を振る。優しく笑って。


驚きと困惑を滲ませながらも、なんとか笑って応えた。





──これはただの偶然だよ。



手を振りながら何度も自分に言い聞かせる。

けど、少し期待も滲ませた。



そんなことは有り得ないことだろうけど、聞こえてたらいいな、って。



『好き』って言葉より、私の声を。








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